大阪地方裁判所 昭和63年(行ウ)66号 判決 1989年5月26日
大阪市住吉区我孫子四丁目一三番四五号
原告
(選定当事者)
北野良作
大阪市住吉区住吉二丁目一七番三七号
被告
住吉税務署長
太田敬紀
右指定代理人
佐藤明
同
国府寺弘祥
同
西尾了三
同
濱田猛司
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 別紙物件目録記載の不動産の昭和五八年一二月二三日時点における時価額が、五六七六万七七八八円であることを確認する。
2 被告は、原告および別紙選定者目録記載の各選定者に対し、一〇一二万三七〇〇円およびこれに対する昭和六三年一二月一八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
4 第2項につき仮執行宣言。
二 被告
(本案前の答弁)
主文と同旨。
(本案に対する答弁)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
3 担保を条件とする仮執行免脱の宣言。
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 被告は、北野藤治郎(以下、「藤治郎」という。)が昭和五八年一二月二三日に別紙物件目録記載の不動産(以下、「本件不動産」という。)を北野商事有限会社(以下、「北野商事」という。)に譲渡したこと(以下、「本件譲渡」という。)につき、本件不動産の時価額を五六七六万七七八八円であると認定したうえ、本件譲渡にかかる譲渡価額三六〇〇万円が同族会社への低額譲渡に該当するとして、藤治郎の昭和五八年分の所得税につき更正処分をなした。
藤治郎は、昭和五九年一二月二三日に死亡し、原告および別紙選定者目録記載の選定者(以下、これらを合わせて「原告ら」という。)が共同相続した。
2 原告らは、昭和六〇年一二月、右更正処分につき被告に対し、異議申立をしたが、被告は、本件不動産の時価額が七〇八〇万〇四八三円であると認定し、右異議申立を棄却した。
3 被告は、昭和六二年九月三〇日付けで北野商事の昭和五八年九月一日から昭和五九年八月三一日までの事業年度の法人税について更正処分等を行つたが右更正処分でも本件不動産の本件譲渡当時の時価額を七〇八〇万〇四八三円と認定した。
4 原告らは、原告らが前記2の異議申立をしたため、法人税につき右更正処分等を受けたものであるとして北野商事から責任を追及されたため、右更正処分等により北野商事の支払うべき法人税等の税額合計二三七〇万四四四〇円を北野商事に代わつて支払つた。
5(一) 本来、不動産の一時点における時価額は、複数存在することはあり得ないはずであるから、被告が本件譲渡について北野商事の法人税の更正処分において認定すべき本件不動産の時価額と藤治郎の所得税の更正処分において認定したそれとは同額であるべきであるから、北野商事の法人税等の税額の合計は、一三五八万〇七四〇円であるべきである。
(二) ところが、被告は、前記異議決定および北野商事に対する更正決定において、本件不動産の時価額を藤治郎に対する更正処分における認定額より一四〇〇万円余りも上回る七〇八〇万〇四八三円と認定したから、北野商事に対する更正処分は、時価額算定の裁量権の範囲を逸脱したばかりでなく、更正処分に対して異議申立をした者と更正処分に従つた者との間で税負担に差異を生じさせるものであり、憲法一四条および国税通則法八三条三項に違反する違法な処分である。
(三) 原告らは、被告の北野商事に対する違法な右更正処分により、北野商事が本来支払うべき法人税等の税額の合計である一三五八万〇七四〇円のほか、さらに、一〇一二万三七〇〇円の支払いを余儀なくされ、同額の損害を被つた。
6 よつて、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、一〇一二万三七〇〇円およびこれに対する不法行為の日の後である昭和六三年一二月一八日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を原告らに支払うよう求めるとともに、右損害賠償請求における必要から、本件譲渡が行われた昭和五八年一二月二三日時点の本件不動産の時価額が五六七六万七七八八円であることの確認を求める。
二 被告の本案前の答弁の理由
1 本件不動産の時価額の確認の訴えについて
右訴えは、現在の権利または法律関係の存否ではなく、単なる過去の事実の確認を求めるものであるから、確認の利益を欠く。
また、被告のなした更正処分の効力の否定を目的とするならば、右処分の取消訴訟に、被告のした更正処分またはこれに関連する措置によつて生じた損害の填補を目的とするならば、しかるべき給付訴訟にそれぞれよるべきであるところ、原告が本件で求める右訴えに勝訴しても法律上原告に何らの利益も生じないから、右訴えは、原、被告間の紛争解決に有効、適切な手段とはなり得ない。
したがつて、右訴えは、いずれにしても不適法である。
2 損害賠償請求の訴えについて
被告は国の行政機関であり、実体法上の権利義務の帰属主体になり得ないから、右訴えは、当事者能力を有しない者を被告とした不適法な訴えである。
三 本案前の答弁の理由に対する原告の認否
本案前の答弁の理由はいずれも争う。
四 請求原因に対する被告の認否
請求原因1ないし3の各事実は認める。同4の事実は知らない。同5の主張は争う。
第三証拠
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本件不動産の時価額の確認の訴えについて
原告の右訴えは、本件譲渡が行われた昭和五八年一二月二三日の時点における本件不動産の時価額が五六七六万七七八八円であることの確認を求める民事訴訟であると解される。
しかしながら、被告は行政庁であり、権利義務の帰属主体でないことは明らかであるから、民事訴訟において当事者適格を有するものではない。さらに、被告が藤治郎の所得税に関する前記更正処分において、本件譲渡当時の本件不動産の時価額を五六七六万七七八八円と認定したことは当事者間に争いがないところ、このことを前提とすれば、原告の主張する事実関係を前提としても、本件訴えにおいて、被告との間で本件不動産の右時点の価額が同金額であることの確認を求める利益はない。したがつて、原告の右訴えは、いずれにしても不適法である。
なお、原告は、右時価額の確認を求めることは、被告に対する後記損害賠償請求訴訟との関連で必要である旨主張する。しかしながら、かりに原告と被告との間で右時価額が確認されたとしても、原告の主張する、被告との間における紛争の解決につき原告に何ら法律上の利益をもたらすものではないうえ、右損害賠償請求が不適法であることは後記のとおりであるから、原告の右主張は採用できない。
二 損害賠償請求の訴えについて
原告の右訴えは、被告の職務行為の際の違法行為を理由とする損害賠償請求と解される。しかしながら、行政庁である被告が右訴えにおいて当事者適格を有しないことは前記のとおりである。したがつて、原告の右訴えは、その余の点について判断するまでもなく、不適法である。
三 結論
よつて、原告の本件訴えをいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川口冨男 裁判官 田中敦 裁判官 黒野功久)
物件目録
大阪市住吉区刈田七丁目八一番一一
宅地 一四五・一六平方メートル
選定者目録
大阪市住吉区我孫子四丁目一三番四五号
北野作二
右同所
北野カヅエ
右同所
北野洋子
大阪市天王寺区四天王寺一丁目八番一〇号
右田みつ子
大阪市住吉区杉本一丁目一三番二七号
田中吉子